のま「アングロアメリカスタイル」を語る

のま「アングロアメリカスタイル」を語る

 

 

麻布テーラー横浜モアーズ店ブログをご覧の皆様こんにちは、野間です。今回語りますのは、「アングロアメリカスタイル」。麻布テーラーの社内報にて私が寄稿している“紳士服にまつわる連載コラム”からの内容になります。現在(2025-2026年秋冬シーズン)展開している麻布テーラーの商品企画「ブレザー新型モデル」や「コート新型モデル」にも重なるテーマとして8月発行号の題材に選びました。本来は社内に向けたものですのでやや硬めの内容ではありますが、皆様にはバーでの他愛のない話題、程度にお楽しみいただけましたら幸いです。

 

 


 

 

宗教的な価値観が深く関わるアングロアメリカの服装を読み解くに際して、ドイツの社会学者マックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(1905年)は避けて通れない。この書では、カルヴァン派(改革派プロテスタント)の人々が「日々の仕事」そのものを神から与えられた使命と捉え、労働や節制を通じて信仰を可視化しようとした点が指摘される。祈りや儀式よりも、日々の務めに誠実であることを重視するこの姿勢は、やがて近代の合理主義や制度設計の倫理として根づき、衣服にも簡潔さと実用性を求める文化的傾向を生んだ。

 

 

 

 

アメリカの建国層であるWASP(White Anglo-Saxon Protestant/白人アングロサクソン系プロテスタント)が根を張ったニューイングランド地域(アメリカ北東部)では、こうした服装思想が社会的規範として浸透していた。たとえばバルマカーンコート(スコットランドのBalmacaan領地に由来する狩猟用・旅行用コート)のランスリーブといった構造は、視覚的な主張ではなく、天候や可動性に配慮した設計であり、目的性と合理性を最優先する思想に貫かれている。アメリカがこの英国由来のコートを日常的なビジネスウェアとして採用したのは、まさにその実用精神に価値を見出したからである。

 

 

フロントダーツのないブレザーも、その価値観が形になったものだ。ダーツとは、布を身体の起伏に沿わせるための縫製操作であり、横に2cm細くするには、縦に20cmほど縫い込む必要がある。あえてそれを省くのは、個人という唯一の存在を明瞭にする身体への補正を避け、誰にでも等しく合う中庸な服を設計する思想の表れである。構造が単純化されることで、工業的な再現性や量産にも適している。これも、機能性と普遍性を重んじるアメリカ的合理主義の一端である。

 

 

 

 

こうした思想の核には、聖書の記述も見え隠れする。新約聖書『ヘブライ人への手紙』第4章12節には、「神の言葉は、魂と霊、関節と骨髄をも切り分けるほど鋭い」とある。これは、天に掲げた右手の剣に託された神の言葉が、人の内奥へと届くさまを描いた一節である。そしてアメリカ式のリバース・タイは、着用者の右肩から左胸を結ぶ、向かって右下がりのストライプを持つ。このラインは、右手を掲げて誓いを立てるという身体の動作と一致しており、信仰と良心の通路を可視化する記号として捉え得る。

 

 

 

 

英国でレジメンタル・タイと呼ばれるものは、着用者の右腰から左肩を結ぶ、向かって右上がりのストライプを持ち、軍隊や各種クラブの所属を示すものだった。そのため、意匠に明確な意味を持たないストライプタイをレジメンタル(regimental/連隊の)と呼ぶのは、厳密には誤用である。この英国的「帰属の線」を反転させ、アメリカ的「信念の線」として再定義することは、ヨーロッパ的な階級や権威から距離を取ろうとする、新世界の自由主義・平等主義的精神の表れとも言える。

 

 

アメリカ建国の父たちは、イギリス絶対王政に代わる統治の理想を共和政ローマに見出していた。その理念を象徴的に表すものとして、上院の紋章にはファスケス(fasces/斧の周囲に木の棒を束ねた意匠)が掲げられている。これは「個を束ねて公共に奉仕する」という思想の視覚化であり、市民の自律と協調によって成り立つ政治への信頼を示すものである。「束ねる」という発想は、複数の州を一つに結ぶ合衆国(United States)という国名の語感とも響き合う。プロテスタンティズムが重んじた節度・勤勉・神の前での平等といった価値観も、こうした公共性の理念と深く呼応している。

 

 

 

 

アメリカの服装思想は、合理性と中庸、そして誠実さを基盤とする。そこにあるのは、「理念に殉ずる」のではなく、「行動と結果で理念を示す」という考え方だ。それが、プラグマティズム(pragmatism/実用主義)の精神である。

 

 

こうした設計思想は、やがて企業社会において「信頼される服装」として定着する。自己を飾るのではなく、公共の場に相応しくあろうとする装いの奥に、共和政ローマの制度観とプロテスタントの実践倫理が静かに宿る──そこに、アングロアメリカスタイルの深さがある。

 

 

麻布テーラー横浜モアーズ店 野間


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