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麻布テーラーの哲学を作り上げたカリスマ

受け継がれる勝井イズム

麻布テーラーの根幹には、まるで通奏低音のごとく受け継がれる哲学があります。勝井照夫 ー 没後10年以上となる今でも度々話題に上る伝説のスタッフの功績を、彼をよく知る3人に語ってもらいました。

好きなことにとことん尽くせ。
その姿勢は絶対に、誰かの心を動かす

Teruo Katsui

勝井照夫

1999年に立ち上がった「麻布テーラー」を初期の段階から担い、急成長させたカリスマ的存在。当時の肩書は常務であったが、現場主義を貫き、接客対応からマーチャンダイズに至るまで、店舗の基礎を作り上げた、その進取の精神は今でも受け継がれている。

〈左から〉

勝井 大輝

神戸店 店長

勝井の実子。新卒で麻布テーラーに入社し、現在は神戸店の店長を務める。勝井イズムを継ぐ2代目として期待される。

吉田 武史

梅田店 マスターテーラー

勝井と同時期に商品部の部長として活躍。当時は勝井と並び、麻布テーラーの両翼的存在。現在は梅田店勤務。

藤田 哲

営業本部 副本部長

勝井の弟子的存在として、梅田店で経験を積む。今では全国エリアの販売部を統括する部長も担い手腕を振るう。

勝井イズム その1

オーダー店の概念を変える独自の
"身の丈"主義

麻布テーラーの急成長の裏にはさまざまな理由があれど、勝井照夫という人の存在なしでは語ることはできません。事業立ち上げから間もなくして麻布テーラーの中核として、接客、店舗設計やレイアウト、店舗内の人員配置、そして、麻布テーラーならではのセンス、カッコよさ、これをほぼほぼ一から作り上げました。当時、彼と共に麻布テーラーを支えた吉田、弟子的存在である藤田、そして実子であり、今では神戸店の店長を務める勝井大輝の3人が集まりました。まず、話に上ったのは徹底した身の丈主義という言葉。

吉田 勝井さんは常々、身の丈に合った商売を、とおっしゃられていました。これは、装いにおいてもそうです。自らの枠の中に収まるというわけではなく、むしろ制約があるなかで、どれだけのことができるか、知恵を絞ったり、自ら手足を動かし、手間を惜しまないということです。そうすることで、思いもよらなかった新しいものが生まれていきます。

勝井 父はお店の居心地の良さを非常に重視していたと思っています。人が一番落ち着けるところって、実家ですよね。実家のような居心地の良さを目指す、というのはよく話していた記憶があります

藤田 例えば新店舗を出すとなったら通常であれば不動産屋が主体となって動く。しかし、勝井さんは自分で出店地域を歩いて空室を探し、気に入ったところがあれば一軒ずつ自ら電話して物件を決めていました。なかなかできないことですが、店作りに愛情を注いでいたからこその行動だと思います。

POINT

父が着ていたスキッパーポロシャツを持参した勝井。今でもたまに着ているという。時代を経ても通用する普遍性を持ったアイテム、仕組みを多く作り上げた。

勝井イズム その2

情熱と唯一無二のセンスで
お客さまの心をつかむ

今でこそ身近な存在になったオーダーメイドという形態ですが、それまではハードルの高いイメージがありました。頑固なテーラーがいて、プライスも高い、そんな概念をひっくり返したのも麻布テーラーであり、その源流は勝井にあるとスタッフは思っています。

吉田 とにかく逆をやろうと。プライスは当時3万5000円から。店内は重厚感が出すぎるからと反物をなくし、その代わりにバンチブックという生地台帳を置く。また、ゆったりと過ごしてほしいという理由で、バーカウンターから着想を得た内装にもチャレンジしました。

藤田 接客もしかりです。勝井さんはキャンディ、大阪で言うとアメちゃんですね。これはお客さまが自由に手に取れるようにして、ヒアリングするとなったらテーブルに案内してリラックスしてもらいお話しする。今はほかのメーカーさんでもやられていることだと思いますが、先駆けたのは麻布テーラーであり、勝井さんだったと思います。

勝井 これも幼い頃の話なのですが、父がトランプを用いたマジックを練習しはじめたんです。趣味でやっているのかと思っていたんですが、吉田さんや藤田さんとお会いして、実はお客さまとの距離を縮めるため、接客のひとつとして取り入れていたことがわかりました。お客さまにマジックを披露していたんです。そういった遊び心も父ならではかなと思います。今でもトランプを置いている店舗は少なくないですよ。加えて重視したのが、スタッフそれぞれの個性。センスの良さはもちろん、趣味趣向を含めどこか面白さがある人を集めました。

POINT

綿谷画伯による初めての純広告は勝井さんがモデルに。ここでも家族との時間を有意義に過ごす重要性などが描かれている。

藤田 なにより勝井さん本人がカッコよかったですね。それまではどこもやっていなかったジャケットにジーンズを合わせるという型破りな着こなしもサマになっていましたし、逆にスイングトップを着るときには必ずタイドアップをしていたりと、〝抜き差し〟のあんばいが見事でした。

勝井 麻布テーラーに入社する前にはレコード店に勤めていて、音楽も大好きでしたね。あるとき、おもむろにギターのデッサンをやりはじめて、会議に資料として持って行くと言ってました。これが資料になるのかと思っていましたが、それも父らしさだったのかなと。優れたファッションデザイナーが言葉に先じてデザイン画を描くように、視覚的に訴えることにも重きを置いていたと思います。

吉田 スタッフを採用するときにはなにか熱心な趣味を持っている人を選ぶことが多かったですね。コミュニケーション能力の高さの一端がそこに表れると直感的に気づいていたのかもしれませんね。

POINT

綿谷画伯による初めての純広告は勝井さんがモデルに。ここでも家族との時間を有意義に過ごす重要性などが描かれている。

POINT

勝井さん直筆の資料の数々。店舗内イメージのみならず、店舗スタッフの人間像、梅田店のウインドーディスプレーのデッサン、靴から逆算したスーツコーディネートなど、視覚的なこだわりの強さがうかがえる。ちなみにディスプレーの色付けは娘さんの"お絵描き"だそう。

勝井イズム その3

スタッフを愛し、
スタッフに愛された男

そして、勝井の最たる魅力が、思いやりや愛情という部分です。このアニバーサリーブックにページを割きましょうと多くのスタッフから声が挙がるのが何よりの証左となっています。

藤田 先ほどの居心地のいい店作りにつながってくるのですが、裏表のない気持ちのいい方でした。僕は勝井さんのそばで長いこと働かせていただきましたが、一度も怒られた記憶がないんです。つまり、怒らないような伝え方で育ててもらっていたんです。ほかのスタッフにも怒っている姿を見たことはありません。

吉田 とにかく、みんなから慕われる人でしたね。仕立て屋で一番大事なのは、結局はスタッフなんです。だからどのスタッフにも愛情を持って接した。すると店内の雰囲気も良くなり、それが結果的にお客さまにも伝わる。そういう考えを持っていたと思います。

勝井 吉田さんにも藤田さんにも、小さい頃からよくしていただきました。家族ぐるみの付き合いというか、今思い返すと、スタッフ間の距離が近くなる、円滑になるようにと、自然と計らっていたのかなと思います。

吉田 これもすごい話なのですが、勝井さんに接客されて親しくなった結果、麻布テーラーに入社したというスタッフも少なくありません。彼の人となりというのは、それほどまでに人を惹きつける力があったんです。

勝井 吉田さんや藤田さんのような大先輩が父をこのように語ってくれるというのがすごくうれしくて、とても励みになっています。さらに進化した麻布テーラーをお見せできるように、胸を張って父に自慢できるように、日々を過ごしていこうと思っています。

手作業ならではのぬくもりが宿るカタログは、今でも色あせない圧倒的な迫力が宿る。

POINT

勝井イズムの結晶とも言える、手作りのシーズンカタログ。常連さん向けに限定配布されたものとはいえ、自ら生地見本を裁ち、ページに貼り付け、イラストを描き、製本まで行った。凹凸のある特殊紙を用いた表紙、それをめくると表紙と同じくブルーの化粧紙があり、ページへと展開するという非常に凝った作り。手作業ならではの圧倒的な存在感で、時を超える魅力を放っている。

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