較べて深掘り「サイズ見本」と「仕立て上がり」

較べて深掘り「サイズ見本」と「仕立て上がり」

ジェットクルーズモデルでのま自身着用分の上衣を仕立てましたのでコメントしてみます。

 

麻布テーラー3つのハウスモデルに関しましてはModelをご参照ください。まずは仕立て上がりの画像から。

 

 

そしてこちらがゲージと呼ばれる採寸用見本服(サイズサンプル)を着用している画像です。私の場合はサイズ44Aからカスタマイズしています。

 

 

ジェットクルーズモデルで仕立てるのは初めてなのですが、好ましいと思った点はゴージラインが下がり目なところと前釦位置がやや低めなところです。腰回りがコンパクトで前裾からパンツにかけてシルエットが一体化しやすいところも良いですね。

 

 

因みにですが、ジェットクルーズモデルのゴージラインとシャツ襟の開き角度を平行に揃えようとなさるのでしたら、シャツの襟型はレギュラーカラー系やボタンダウンカラー系がご希望に近いです。

 

アレンジした点はラペル幅と腰ポケット蓋幅を5㎜広くしたところ。ラペル幅は±5㎜まで調整可能です。腰ポケット位置は変更できませんのでゲージのままです。

 

 

素材は英国スペンスブライソン社のアイリッシュリネン100% 370㌘/mです。袖丈は素材特性による今後の着用皺を考慮して普段よりも5㎜長く指示しています。ご参考までにこちらの生地ですとジャケットお仕立て価格オプション代別途で¥58,000+税です。

 

 

較べてみました。

左がアフターで右がビフォーです。

▪袖付け:シャツ袖←普通袖

⇒肩先が丸みを帯びてリラックス感UP。

▪前釦数:3釦中ひとつ掛け←2釦

⇒ラペルがふわりと翻って立体感UP。

 

さて、今回の仕立てにおける補正のポイントをひとつ挙げるとすればそれは中胴廻りの脇ダーツ処理です。

 

下の画像で申しますと身頃部分の右側の縫い目ですね。背中側の脇縫い目ではなくてこちらの脇ダーツでウエストを絞っています。

 

 

 

こちらの補正に「型紙と表地と芯地の特性を考慮して自分好みのドレープに近付けよう」という意図を込めています。

 

そもそもなぜ私が今までジェットクルーズモデルを作ってこなかったかというとこれは好みの問題になるのですが例えば「芯地」の違いがあります。

 

ジェットクルーズモデル標準芯

 

クラシコイタリアモデルとコンチネンタルモデルは「総毛芯」でジェットクルーズモデルは「半毛芯」という違いです。私の好みは「総毛芯」でジャケットの肩から裾まで芯を据えてバストのボリュームとウエストの絞りを立体的に表現しているタイプです。

 

「半毛芯」芯地が入っている箇所

 

ジェットクルーズモデルは「半毛芯」で身頃下の芯地を省略して軽さや生地の柔らかさを得やすくしています。オンオフ対応のセットアップコンセプトのモデルということで敢えて重厚感を覚えさせないように設計されています。

 

両者の間に優劣はありません。どちらがその時の用途や意図により適っているかの判断です。そういう意味で私が好んで着るのはドレープを意識した芯地・型紙であることが多いということです。

 

 

フェルト、胸増芯、肩芯、台芯の4層構造。シャツ袖で軽快な印象の上衣でしたら胸廻りのボリュームはこちらの芯地で十分とみました。

 

あとはウエストの括れです。先に申しましたようにウエスト部分にフォルムの土台となる芯地がないモデルのため前身頃に関しては元々がやや平坦な構造です。

 

そこで表生地自身に擬似的な芯地の役割を担わせようとしたのが今回の発想です。アイリッシュリネンは上襟に据える高級襟芯に用いられることもあり、適度なハリと馴染みの良さを備えています。

 

 

そのために脇ダーツの量を多めにしても縫い目にピリつきが起きず綺麗なシェイプが出せました。自社直営工場の職人さんにはより入念なアイロンプレスを求めてしまうアイリッシュリネンですが想像通りに良い仕事をしていただけましたので嬉しいです。

 

 

 

芯地に関しては店舗運営の傍らビスポーク用毛芯の開発に加わった経験があります。副資材の商社様と打合せを重ねメーカー様の工房を訪ねて様々な芯地素材の可能性や組み合わせを試し、弊社展示会に於いても数シーズンにわたりプレゼンテーションを担当しました。

 

その際のお相手は服飾業界内外の方々でしたが芯地の重要性を元から理解されている方は業界内の方に限ってみましてもひと握りという様子でした。勿論ご説明させていただくと驚きとともにご納得いただけるのですけれど、一般のお客様が仕立ての良し悪しを直ぐに判断できるかと申しますと失礼ながらそれは難しいのではないかと思います。

 

例えば美術鑑賞等がご趣味の方は観察力があり感性も豊かでいらっしゃるでしょうから造形把握などはお得意そうですが、対象がテーラードウエアやビジネススーツといったカタチをとった途端それらが機能しなくなるという方も。それはひとえに着装を「よく見る」経験が少なかったためと思われます。

 

 

袖付け部分も同じです。スーツ販売員の方でもこの部分に無頓着な方はいらっしゃいます。芯なし肩パッドなしは確かに楽なのですがその分シルエットにお化粧ができませんことをご注意ください(今回の私の上衣は肩パッドなしです)。見た目と動きの両方に関わる部分ですので実のところ調整がとても難しいです。

 

最高峰のお仕立てをご希望の方には東京銀座にございます麻布テーラークレスト店でご自身だけの型紙を起こすフルハンドメイドをお勧めいたします。そちらの場合はアイリッシュリネン生地でジャケットお仕立て価格オプション代込で¥216,000+税です。

 

見栄えと着心地を突き詰めればそれだけ技術もコストも必要です。クレスト店担当時は工芸品レベルでの審美を追求することでお客様にご満足をお届けして参りましたが、麻布テーラーレギュラー店舗のフィッターとしましては合理化されたシステムの中でどれだけお誂え品の旨味を感じていただき紳士服の世界にご興味を持っていただけるかが腕の見せ所かなと思っております。

 

 

今回はスタッフである私を例としましたがお客様お一人おひとりにも思い入れやお好みがおありと存じます。それ故に同じ「サイズ見本」をベースにしても「仕立て上り」が同じとはならないところが面白いですね。

 

野間 剛

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