麻布テーラーの人々 本間希樹さん(天文学者)

2019年、世界で初めてブラックホールの撮影に成功し、天文学会を沸かせた本間希樹さん。普段の研究時はカジュアルな服装が多いものの、“ここぞ”という場面でスーツを着ると気持ちが高ぶるのを感じると語ります。そんな本間さんに、仕事とスーツ、そしてオーダーウェアに関して、じっくりお話をお伺いしました。

「気分を高め、自信を与えてくれるのがいいスーツの魅力だと思います」

世界にまたがる研究チームの日本、ブラックホールの撮影という 歴史的偉業を成功させた本間さんですが、 そもそも天文学者になろうと思われたきっかけはなんだったのでしょうか?

本間さん:子どものころから星は好きだったのですが、大学に入ったときはまだ天文学を志していたわけではありませんでした。私の大学では3年次に専攻を決める制度になっていたので、受験のときは特に専攻を決めないままとりあえず理工系に進んだのです。それで、いよいよどの専門分野に進もうかという時期になったとき、ミクロの分野かマクロの分野かで迷って、結局は“一番スケールの大きいことをやろう”と天文学を選びました。

なるほど。天文学は非常に人気の高い分野だと伺いましたが、苦労はされませんでしたか?

本間さん:確かに、天文学科の定員は10名で、人気もありました。当時の私はというと、大学入学後にオーケストラへ入りまして、音楽にのめり込んでいました。当然成績はあまり良くなかったのですが、なんとか天文学科に滑り込むことができました。かなりギリギリでしたが(笑)。

それは意外!そして大学院でも、引き続き天文学の研究をされていたと。

本間さん:はい。当時は大きな銀河がどのように回転しているかを電波望遠鏡で観測して、暗黒物質に関する研究を行なっていました。1999年に学位を取って、さあこれからどうしようかと考えていたときに、離れた場所にある複数の巨大な電波望遠鏡を使って宇宙を観測する「VERA」というプロジェクトが立ち上がりました。自分の専門分野と直結するものでしたので、これは好機と志願して国立天文台へ入ったというわけです。それから約20年間、電波望遠鏡を用いた天の川銀河の観測と研究を行なっています。

ブラックホールというテーマにはいつから取り組んでいらっしゃるのですか?

本間さん:ここ10年ほどですね。2008年あたりから、“ブラックホールを見ることができるかもしれない”という話が出始めて、アメリカの研究チームと合同でブラックホールの観測に挑戦しようという共同研究を開始したのです。その後はヨーロッパやアジアなどからも研究者が参加して、国際的なプロジェクトになっていきました。最終的に、チームは200人を超えるほどになりましたね。

「チームで成果を出すには、同じゴールを共有することが大切」

本間さんは日本チームの代表として研究を牽引されていましたが、 それだけ大規模になると、様々な困難やトラブルもあったのではないでしょうか?

本間さん:それはもう数え切れないほどありました。一流の研究者が集まっているわけですから、意見が対立することもあります。そのうえ海外チームとのやりとりでは文化や言語的なギャップもあるわけですから、どうやってこのプロジェクトを空中分解させずに進めていけるかとヒヤヒヤすることも多々ありましたね。

チームをどうまとめ上げ、結果に繋げるか。 このあたりは、ビジネスマンの方々とも共通する悩みですね。 結果として本間さんたちのチームは見事、困難を克服してプロジェクトを 成功に導いたわけですが、その秘訣はどこにあったのでしょうか?

本間さん:一番は、“ブラックホールを観測する”というゴールを共有していたからではないでしょうか。人種も、言語も、文化も、考え方も違っても、その目標にかける情熱だけはみんな等しく持っていた。ですから、意見がぶつかったり、思うように研究が進まなかったりしても士気が下がることはありませんでした。目標をクリアにして、それをみんなで共有することがチームにとって大きな力となることを実感しましたね。

なるほど! どんな仕事にも共通する“成功の秘訣”ですね。

本間さん:あとは、“楽しくやる”ことでしょうか。我々の仕事は未知の領域への挑戦ですから、失敗やトラブルの連続です。そこから何度でも立ち直って、解決に向かって進む原動力になるのは、子供の好奇心のような気持ちだと思います。トップが楽しそうに仕事をしているチームというのは、結果も出せるのではないでしょうか。

まさしくそのとおりです。麻布テーラーも“いいスーツを仕立てて、世の中を輝かせたい”という目標のもと、スタッフが心から楽しんでお客様と接しています。そうしていると、お客様からも“またオーダーに着たいね”と気に入っていただけるんですよ。

「一度オーダーを体験すると、次も作りたいと思わせる魅力がありますね」

ところで、本間さんは 2019年、雑誌「MEN’SEX」と 「NIKKEI STYLE Men’ s Fashion」が主催する「スーツ オブ ザ イヤー」にも選出され、 授賞式では麻布テーラーのオーダースーツをご着用いただきました。 ご感想はいかがでしたでしょうか?

本間さん:オーダースーツを仕立ててもらうのは初めての経験だったのですが、やはり自分の体に合ったものを作ってもらうのはいいなと素直に思いましたね。着心地も見た目も、既製品とは違うなということがよくわかりました。息子の成人式のときにも是非オーダーしてみたいと思いましたね。一度オーダーすると、次も仕立ててみたいと思わせてくれる魅力があると思います。

ご満足いただけて何よりです。ところで普段、仕事でスーツはお召しになりますか?

本間さん:実は普段の仕事では、カジュアルな服装で過ごすことがほとんどなのです。スーツを着 るのは式典やパーティなど行事のときですね。でも、それだけにビシッとスーツを着てネクタイを締めると、気持ちが高揚するのを実感します。私にとってスーツを着ていくのは特別な場面なので、自分を引き締めてくれるものですね。「スーツ オブ ザ イヤー」の後も、そんな機会が何度かありました。たとえば昨年末には現在の勤務地である国立天文台水沢VLBI観測所の設立120周年式典がありまして、所長の私は主催者として参加したのですが、そこでも麻布テーラーさんのスーツを着て行きました。岩手県知事や国会議員の方々にもいらしていただいたのですが、いいスーツを作ってもらったおかげで自信を持って臨むことができました。

そんな機会にお召しいただけるとは、光栄です!

本間さん:それから、アメリカの雑誌から招待を受けて、現地でのパーティに参加したときもこのスーツでした。世界のセレブリティが集う上流社交会だったので、なかなか緊張するイベントだったのですが、“鎧”をまとったような気持ちにさせてくれましたね。

本当にありがたい限りです。 ちなみに、もし次にオーダーするならどんなものをイメージされますか?

本間さん:次はもう少し日常的な場面でも着られるような、カジュアルな服をオーダーしてみたいですね。ジャケットとか、トラウザーズとか。実はこれ、妻からのアドバイスなんですが(笑)。今回のスーツもすごく褒められて、悪い気はしませんでした。

次は是非、奥様とご一緒にいらしてください(笑)。今回はありがとうございました!


本間 希樹 さん天文学者 / 国立天文台水沢 VLBI 観測所所長

1971年生まれ、東京大学理学部天文学科卒。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程終了。学位を取得した’99年より国立天文台に勤務し、現在は岩手県にある水沢VLBI観測所所長を務める。電波望遠鏡を用いた観測による宇宙の研究を長年行い、2019年には人類史上初となるブラックホールの撮影を成功させた。