麻布テーラーの人々 岩元美智彦さん

「麻布テーラーの人々」と題し、麻布テーラーと深く関係のある一線で活躍をされている方々にお話をうかがう本連載。第四回目となる今回は、昨年11月にNIKKEI STYLE Men’s FashionとMEN’S EXの 2 メディアが共催する「SUITS OF THE YEAR 2020」ビジネス部門の受賞者に選出され、表彰式で麻布テーラーのオーダースーツを着用した、日本環境設計 取締役会長の岩元 美智彦さんにお話しを伺いました。

「オーダー服もひとつのサステナブル」

目下のファッション産業において、世界規模の共通課題になっているのが「サステナブル」への取り組み。とりわけ、生産と消費に関わる環境負荷の低減は非常に大きな目標ですが、日本の繊維業界でいち早くその重要性に気づき、今や世界から注目される存在となった人物が岩元美智彦さんです。

「繊維商社に勤めていた時代、ペットボトルから再生したシャツを持って色々な場所を回り、リサイクルを促進するという仕事を担当していました。実際に話をすると、皆さんリサイクルの重要性をよく理解していただき、活動の手応えを感じていたのですが、工場から排出される繊維ごみに対し会社として直接関われないという現実にもどかしさも感じていました。ならば、自分で会社を興して繊維リサイクルに挑戦したい。そんな思いが日本環境設計の原点です」

同社は不要になった服のポリエステル繊維に独自の処理を施し、“服から服”の平行リサイクルを実現する技術を日本で初めて確立。現在、その再生素材を多くのブランドが採用するほか、オリジナルのファッションブランド「BRING」も展開しています。

「サステナブルという言葉すら浸透していなかった創業から14年。今やアパレル業界のリサイクル意識は大きく進歩し、海外の大手ブランドが再生素材や再生可能な素材を服作りの主流にしていくと表明するまでになりました。

そんな試みを、買い手が魅力的に感じる服作りにどう落とし込むか。それが今後の課題だと思います。純粋に“着たい”と思って買った服が、実はサステナブルな服だった、という形が理想ですね」

昨年は「SUITS OF THE YEAR」にも輝いた岩元さんですが、時にはカジュアルな服装でも仕事しているとか。その使い分けはどのようにしているのでしょうか?

「やはり“ここぞ”という場面ではスーツを着るようにしています。カジュアルだからといって気合が入っていないわけではありませんが(笑)。特にターニングポイントになりそうな打ち合わせだったり、多くの方の前でお話をさせていただくときなどは、スーツの持つパワーがとても頼りになりますね」

「スタッフの方のスキルが非常に高いことにも驚いた」

今回の授賞式のために、麻布テーラーへご来店いただいた岩元さん。そこでどんな感想をお持ちになったのでしょうか。

「まず、スタッフの方の雰囲気作りが上手ですね。
とてもリラックスしてオーダーすることができました。いつもは紺無地のスーツが多く、今回のようなグレーのストライプはあまり馴染みがなかったのですが、スタッフの方と相談して挑戦してみることに。結果、社内外からも非常に好評で、大変満足しています。自分としても、仕立て上がったスーツを着て鏡を見ると、思わずうっとりするほど気に入りました(笑)。採寸の際、体型だけでなく“動き”のクセまで考慮していただいたのも印象的でしたね。
特別なスーツなので、特別な場面にまた着たいと大切に保管していましたが、何気ない日々の尊さを実感し、“日常こそ特別”としみじみ感じる今にあっては、あえて普段使いしてみるのもいいなと思っています。普段はテクノロジーでサステナブルに取り組む私ですが、オーダースーツのように長く愛用できる一着を持つということもサステナブルの形だと思います。スタッフの方との出会いから始まり、対話を通してオーダーし、わくわくしながら仕上がりを待つ。そうして完成したスーツは、間違いなく特別な存在になります。その一着に、自分だけの思い出を込めながら愛用していく。そういうサステナブルの実現もいいですよね」


岩元 美智彦 さん日本環境設計 取締役会長

1964年、鹿児島県生まれ。北九州市立大学卒業後、大手繊維商社にて再生繊維を作る事業に参加。
2007年に高尾正樹氏と日本環境設計を創業。