麻布テーラーの人々 大島 康弘 さん(株式会社ベティスミス 代表取締役社長)

「麻布テーラーの人々」と題し、麻布テーラーと深く関係のある、一線で活躍をされている方々にお話をうかがうこの連載。今回は、デニムスーツ開発に携わったベティスミスの大島康弘社長と、愛用されている3名の方にご登場いただきました。作り手としての感想やデニムスーツの印象、実際に着用してみてのご感想などを伺いました。

まず、みなさんのご関係を教えてください。

大島さん:岡山大学の三村先生とは、実はこの前の倉敷市の未来会議で初めてお会いしました。

三村さん:そうでしたね。

大島さん:その会議で先生がSDGsのお話をされていたんです。「この素材をデニムに再利用してみたら?」というようなお話で、それに興味を持ったことが親交を温めるきっかけとなりました。

三村さん:そうですね。それから、私が付けているSDGsバッヂを作っていただきました。これをデニムでお願いできないかというような話も少し。それと数年前に倉敷市のご依頼で商工計画の見直しをした際、デニム工場を見学したり、児島ジーンズストリートの活性化について少し携わったりと、改めて児島のデニムは素敵だなと感じました。

常國さん:セレモニーで大島社長がブラックデニムのスーツを着用しておられて。一見すると普通のスーツのように見えましたが、「実はこれ、デニムなんだよ」と。みんなが驚いていて「これ、良いね」という話になったことを覚えています。

岡山大学 地域総合研究センター長・大学院社会文化科学研究科教授 三村聡さん

大島さん:室さんとは十年くらいのお付き合いで、確か京都の会議で初めてお会いしました。
当時はまだ、倉敷市の、児島のジーンズがそこまで有名ではありませんでした。多くの人が“ジーンズと言えばアメリカ”というすり込みがあって、「ビッグジョン」も「ボブソン」も「ベティスミス」も、岡山発祥なのにあまり知られていませんでした。ただ、徐々に倉敷がジーンズの産地ということが知れわたり、それをPRしていこうという運びになって。京都の会議で倉敷市の観光課の方と一緒に、倉敷のジーンズをPRさせてもらったんですよ。それから2008年くらいに地域産業をクローズアップするというお話があって、その時に室さんがJRで地域産業の取り組みをされていて、一緒に児島をPRしてくれたんです。それが知り合いになったきっかけです。それから室さんはPRや講演などをされるたびに、自らジーンズを履いてくれました。 児島のジーンズを盛り上げていただいた功労者ですね!

室さん:当時は「白壁の町 倉敷」で定着していましたが、今や「ジーンズの町 倉敷」と言っても過言ではありません。

JR西日本 総合企画本部地域共生部アドバイザー 室 博さん

デニムスーツをつくるきっかけ何だったのでしょうか?

大島さん:実は、麻布テーラーさんからオーダースーツの販売会に誘っていただいたのがきっかけなんです。そこからいろいろあって、僕らが普通のスーツを作っても面白くないね」ということで、自社で開発した生地を持ち込んでデニムスーツを作ることになりました。

三村さん:児島産ということで、単なるデニムではない価値が付きますね。

大島さん:縫製いただいているのが、本物のテーラーさんなのでまさにスペシャルなスーツだと思います。僕らがスーツを作るとやっぱり何かが違うんです。どうしてもカジュアルに寄り過ぎてしまうというか。スーツというよりはセットアップに近い仕上がりになることが多いですね。

株式会社ベティスミス代表取締役社長 大島康弘さん

今回本格的なデニムをきれいに縫製することで、ドレスとカジュアルのバランスが良くなりました。他に素材で工夫された点はありますか?

黒岩さん:オーダージーンズには約50種類の生地があります。その中からスーツとの相性が良さそうな約20種類のデニムをセレクトしました。さらにその中からストレッチが効いたものや、高級感があるシルク混やカシミヤ混などの素材もセレクトしました。
カラーで言えば、定番のブルーデニムだけでなく、ブラックブラックデニムもあります。通常、ブルーデニムは横糸がホワイト、縦糸がインディゴです。ですが、このブラックデニムは縦糸も横糸もブラックなので、ブラックブラックと呼んでいるんです。
これは結婚式や二次会などの場にも違和感なく馴染みそうだなと。

室さん:私も本日着ておりますが、本当にデニムだと言われないと分からないほどフォーマルな仕上がりですよね。

デニムスーツを着用された感想はいかがですか?

大島さん:デニムとスーツの良いところ取りしたという仕上がりで、とても風合い良く仕上がっていると思います。デニムスーツは他のブランドさんからも発売されていますが、やっぱりカジュアルすぎたりドレス過ぎたりとバランスが難しい。でも、これはナチュラルにデニムの良さ・スーツの良さをそれぞれ感じ取ることが出来ます。それが新鮮で、じゃあ世に出す価値はありそうだなと感じました。

常國さん:近年はビジネスカジュアルの流れが主流になっているうえに、コロナの影響でリモートワークも増えていますから、スーツを着用する機会は確実に減ってきています。私も固い職場ですが、スーツ着用がマストかと思いきや、Tシャツとチノパン、それにスニーカーで勤務している部署もあります。そう考えると、このデニムスーツは単体使いができるのでありがたいですね。

室さん:デニムスーツは見た目にこなれ感があって、ウール100%のスーツとはまた違った表情で味わい深いですね。

大島さん:このスーツ、出張などでもとても使えると思いますよ。

室さん:実際に出張で使いましたが、非常に便利でした。いろいろな着こなしができるし、シワになっても雨に濡れても、それほど気になりませんから。

三村さん:見た目以上に本当に楽なんですよね。これってお手入れはどうすればいいですか?

大島さん:基本的にはドライクリーニングがいいと思います。スーツに使っているデニムは、一度縫製する前に洗っているんです。だから基本的には縮まないんですが、稀に縫い伸びすることもあるので、ドライクリーニングがおすすめです。

デニムの魅力のひとつは経年変化。使い込むことにより色落ちして風合いが増し、また違った魅力が生まれてくるはずです。5年後か10年後、使い込んだデニムスーツを着用してもう一度集まるというのも面白いですね。
本日はありがとうございました。