サヴィル・ロウと麻布テーラー。

サヴィル・ロウと麻布テーラー。

初めてロンドンのサヴィル・ロウを訪れたのは、1995年の大学卒業旅行だったのを記憶しています。モスクワ経由のロンドンの貧乏旅行は、中華街で安い炒飯ばかり食べ、当時好きだったストリートファションブランドや古着やスニーカー、CDやレコードを買いあさってばかりいました。そんなストリートカルチャーどっぷりの同時の私がなぜビスポークスーツの聖地のサヴィル・ロウにも足を運んだのか!?理由は、その数か月後に紳士服アパレルメーカーに就職が決まっていたからです。それは今の会社なのですが、当時は「ギーブス&ホークス」を展開していました。このブランドを担当したかったこともありますが、そんな勉強熱心な姿勢はほとんどない観光的な軽い気持ちでした(苦笑)。

 

あれから、数十回と仕事でロンドンを訪れていますが、サヴィル・ロウは毎回チェックしています。私がロンドンに行き初めた時は、ニュービスポークというムーブメントが真最中で「リチャード・ジェームス」「オズワルド・ボーテン」「ティモシー・エベレスト」を代表に、老舗のサヴィル・ロウのテーラーとは全く違う若々しいカットや色彩で現代的なスタイリッシュなスーツで新たな顧客を獲得していました。その後、衝撃的だったのが2007年に「ギーブス&ホークス」の真向かいに「アバクロンビー&フィッチ」が開店して、若者が行列していた光景を目の当たりにしたことです。サヴィル・ロウのブランド価値が損なうとして、組合が行政に抗議したと、ちょっとしたニュースにもなりました。

 

このように偉そうにチェックしているといっても、サヴィル・ロウのビスポークスーツは、2ピースで平均4,500ポンド(現在のレートで約64万)ぐらいなので、「ちょっと買い物してくるわ!」というような場所ではありません。せいぜいレディメイドのアクセサリーを買うぐらいで、店の人に「私も日本でテーラーブランドしているぜ!」的なこと言いながら、「どんな生地が人気か?デザインが人気か?」などを話すぐらいのウィンドウショッピングに近いものでした。

 

しかし、今回はどっぷりとチェックしてきました。ジェントルマンズクラブRACに引き続き、ハリソンズの社長の計らいで、私の思い入れのある元担当していた「ギーブス&ホークス」とサヴィル・ロウに現存する最古のテーラー「ヘンリー・プール」を裏の裏まで案内してもらいました。

サヴィル・ロウのテーラーといってもルーツによって得意なハウススタイルがあります。「ギーブス&ホークス」は、英国の士官の軍服を仕立てることから拡大したテーラーです。鎌の浅いアームホールや身体にぴったり沿うドレープ、構築的なショルダーなど軍服がベースな事が今でも分かります。アーカーイブルームで貴重な軍服の説明はもちろん、特別に試着までさせていただきました。

地階にある工房でも職人さんから色々とお話しが聞けました。かなり、ディープな内容だったのでブログでは書けませんが。。。しかし、ここで修行され日本でテーラーとして活躍されている私の元同僚の師匠からも懐かしい話しが聞けました。

でも、我々の世代でいえばやはり、この衣装でしょう!マイケル・ジャクソンのBADのツアーの際に着用されたものです。ギーブス&ホークスの作品だったのは昔聞いたことがありましたが本当でした。英国王室×海軍×陸軍をテーマにされたらしいですが、シルクのハンド刺繍は圧巻の技術力です。

そして「ヘンリー・プール」、旧宮内省御用達を含む世界で40ものロイヤルの認定を受けている、サヴィル・ロウに現存する最古のテーラーです。

ルーツは軍服の仕立てが専門だったのですが、私のイメージはスモーキングジャケットです。元来自宅の部屋着として、くつろいで喫煙する際に着用するためのジャケットをエドワード皇太子の命によってフォーマルなディナーパーティー用として作ったのがここです。

また、地下の工房では、分業でそれぞれの作業中。熟練のベテランの中に若い職人さんも多いのも驚きです。

そして、著名な顧客として知られるのがウィンストン・チャーチル。噂では、総額で200万円を超える不払いがヘンリー・プールにあると聞いたことがあります。それは、聞けませんでしたが(笑)。

私も先日のスタッフ教育の時に、「クラシック回帰で英国のテーラードディティールがトレンドです。」と説明していましたが、浮き沈みがあれサヴィル・ロウの作りだすスーツスタイルは、麻布テーラーの目指す指標であり、世界のメンズスーツの指標でもあると思います。スーツの源流はサヴィル・ロウだと私は信じて、麻布テーラーのクリエーティブディレクターをしています。上辺のトレンドでサヴィル・ロウのスタイルを注目しているのではありません。ただし、古いスタイルには興味はありません。スーツを単なるビジネスウェアとしてではなく、自らの個性を表現するためのパーソナルウェアーとして、変わり続けることも肯定するサヴィル・ロウのスタイルに敬意をもっています。ですから、ピッティスタイルにも敬意をもっています。

最後に、それを感じてほしくて、若手を研修として同行してもらっています(笑)。

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