麻布テーラーの人々 ゆでたまご 中井義則さん

「麻布テーラーの人々」と題し、麻布テーラーと深く関係のある一線で活躍をされている方々にお話をうかがう本連載。今回は、「キン肉マン」の作者である中井義則さんにご登場いただきました。麻布テーラーとの関係や、ご自身のお仕事の事やファション感などについて、教えていただきました。

漫画家の装いと聞いて、どんな姿を思い浮かべるだろうか?
1980年代に一世を風靡し、今なお絶大な人気を誇る漫画『キン肉マン』。その作者である中井義則さんがその身に纏うのは、グレンチェックのジャケットにチャコールグレーパンツ、そして白シャツにブラウンのソリッドタイといった、英国紳士さながらの落ち着きのある装いだった。

ジャケットの色柄がクラシックでとても上品です。シルエットもタイトすぎず、まさに、歳を重ねた大人の男ならではの余裕が感じられる着こなしですね。

中井さん:ありがとうございます。さすがに、普段からスーツやジャケットを着ているわけではありません(笑)。いつも仕事場では作業がしやすいラフな格好が多いのですが、それでも、背筋をきちんと伸ばしたいときや、相手に敬意を表したいときなど、確かにスーツやジャケットは格好の武器になると思います。それは何も、会社に勤めるビジネスマンに限ったことではありませんよね。年齢とともに、最近はこうして取材を受ける時などにも、ジャケットやスーツを着用することが多くなりました。

なるほど。ちなみに、中井さんとスーツとの出会いと言いますか、初めてスーツに袖を通した時のことを覚えていらっしゃいますか?

中井さん:そうですね。確か、1979年まで遡りますが、『週刊少年ジャンプ』で漫画の連載開始が決まって、大阪から上京するにあたり、社会に出るのならと、紺無地のスーツを両親に買ってもらった記憶があります。

そうでしたか。アニメや“キン消し”で1980年代に一大ブームを巻き起こした『キン肉マン』は、『週刊少年ジャンプ』での漫画連載が始まってから既に40年以上にも。
現在もWEBサイト「週プレ NEWS」でクオリティの高い連載が続いています。

中井さん:ありがとうございます。これまで散々描いてきた超人でも、新たな表現ができるという思いが自分の中に湧いてくれば、描き飽きるということはありませんから。いくつになっても、迫力ある絵を描いていきたいと思っています。

そういえば、2019年にはキン肉マン40周年を記念してさまざまなイベントや企画が行われたそうですね。なかでも、イギリスへの取材旅行を敢行し、中井さんは、ビートルズのレコードジャケットで有名な「アビイ・ロード」で撮影するという夢がかなったそうですね。

中井さん:はい、そうなんです。人間を超越した存在の超人たちが、リング上でさまざまなバトルを 繰り広げるわけですが、写真の中で先頭を歩いている超人の一人、ロビンマスクはイギリス出身ですし、必殺技である「タワーブリッジ」など、ストーリーや登場人物に絡む場所がたくさんありましたから、一度は英国を訪れて、この目で現地の雰囲気を確かめたいという思いがありました。実はこの写真、人通りの少ない午前中の時間帯を狙って、スタッフ総出でゲリラロケを敢行(笑)。「アビイ・ロード」のレコードジャケットと同じ高さから撮影しようと思い、脚立を道路の真ん中に立てて撮影しました。クルマの往来の間を縫って、何度もトライしたんです。衣装いについても、相棒と二人で、色被りを避けるために綿密に打ち合わせを行いました。ちょうど今日着ているこのジャケットとパンツは、この撮影用に麻布テーラーさんでオーダーしたモノなんですよ。相棒が紺色のジャケットだということだったので、英国の雰囲気に合わせて、グレンチェックの柄を選びました。現場の雰囲気に合わせてコーディネイトしたんです。この写真でいうと、私はちょうど右から二番目ですから、リンゴ・スターと同じポジションになりますね。

なるほど。英国への取材旅行にはそんな思いがあったのですね。漫画では、主人公のキン肉マンは、 米国出身のテリーマンやドイツ出身のブロッケンJr.、中国出身のラーメンマンらと闘いの中で友情を築き、切磋琢磨しながら困難に立ち向かい、プロレスを通じて成長していく様が描かれています。そのワールドワイドな世界観を、幼ながらに感じながらワクワクして見ていました。英国での撮影なので、衣装もその場の雰囲気に揃えたということですが、日本には、イギリスやイタリア、アメリカ、フランスを中心とした、諸外国のファッションが数多く入ってきています。色々な国の服飾文化をミックスしているのが、今の日本のファッションと言えますが、中井さん自身はどんなスタイルがお好みなのでしょうか?

中井さん:そうですね。これまで色々な国のキャラクターを描いてきました。人物をよりリアルに描くには、その国の歴史や民族、気候や風土などについて深く理解する必要があると思っています。やはり、人物もそうですが、モノにもその国の歴史やその土地によって育まれた風土、時代背景などが深く関わって来るように思うんですよね。スーツはイギリスが発祥のスタイルと言われていますし、服飾に関しても伝統と格式を重んじる文化が根付いています。そういった観点からも英国の服飾文化、英国の伝統的なスーツスタイルに非常に興味を持つようになりました。

そうだったんですね。確かに、先ほどお仕事場にある本棚を少し拝見させていただきましたが、 図鑑や写真集、美術史などの歴史本など、資料がびっしりと並んでいたのは、 キャラクターの背景や特徴を捉えるための研究用だったのですね。 仕事と装いには、そんな繋がりがあったとは驚きました。 それにしても、こちらのジャケット、肩や胸周りに余計なシワが入らずに、 お身体に綺麗にフィットしています。 やはり、オーダーで誂えたジャケットだなということが一目でわかります。

中井さん:オーダースーツに出会うまでは、百貨店で既製品を購入して、お直しをしながら着ていました。人体って、左右非対称にできているじゃないですか。実は、私も左の僧帽筋から広背筋に掛けてどういうわけか筋肉が盛り上がっていて、既製のジャケットですとどうにもサイズが合いにくかったのです。それが、オーダースーツに出会ってからは、こんなに体型をしっかりカバーしてくれて、ボディラインを綺麗に見せてくれるものかと、びっくり。まさに大発見でした。特に、私がお世話になっている「麻布テーラークレスト」では、自分の体の凹凸に合わせてきっちり仕上げてくれますので、部屋着とまではいきませんが、身体が動かしやすくてとても快適です。そして何より、鏡の前に立った自分が、脚が長くスタイル良く見えたのには本当に驚きました。少し服装に気合を入れた日は外出が楽しみになるのと同じように、お洒落でカッコいいオーダースーツは仕事へのモチベーションも間違いなく上がるでしょうね。

麻布テーラーでは微調整を掛けながら体に自然にフィットさせるようにしています。 体型のお悩みはもちろん、今日お召しのジャケットのように、 チェンジポケットを付けてみたり、生地や裏地、ボタンなどのディテールにも こだわれるので、自分だけのオリジナルスーツをお仕立ていただけます。

中井さん:そうですね。麻布テーラーさんでは専属スタイリストが採寸から生地選びなど、オーダーをしっかりサポートしてくれます。私のように予備知識が無くてもスムーズにオーダーでき、好みやこだわりを反映することができます。2回目以降は指名も可能なので、よりスムーズなオーダーが可能なところも安心でした。これはシーンを選ばないベーシックなジャケットですが、実は機能性の高いストレッチが効いたジャージー生地を使ったスーツもオーダーしたことがあります。座った際にも膝に引っかからず快適なんですよ。ウェストの曲線も綺麗で、既製服にはなかったシルエットだと思います。

既製服にはない味わいといえば、生地は英国伝統のグレンチェックでありながらも、 肩周りの作りなどは、イタリアンスーツの特徴でもある丸みを持たせた ナチュラルショルダーを採用しているあたりは、まさにオーダーならではのバランス感でしょうね。

中井さん:そうなんですね。やはり、細部にまでこだわると愛着も湧きます。まさに、着る人をしっかり引き立ててくれる服ですよね。

服が必要以上に主張してしまっては本末転倒です。 程よく時代感を取り入れながら、 しっかりとした品格あるスタイルを 提案できるところが麻布テーラーの強みですから。

中井さん:スーツって着こなしが難しいですよね。マナーなども、掘り下げていけばいくらでもこだわれます。スーツをお洒落に着こなすためには、サイズの合うスーツであることや、シーンにふさわしいデザインのものであることなど、身だしなみにはルールがあります。にもかかわらず、スーツを着るときにルールを忘れ、お洒落やファッションを第一に考えてしまっていては、若い時はそれも許されたのでしょうが、年齢を重ねた大人の男はそうはいきません。歳をとるにつれて、業界以外の著名な方々に会う機会も増えました。そうした方々とお会いする時の身だしなみは、自分が何を着たいかより、相手の立場を尊重することだと思っています。

普段から着用しているわけではなく、ここぞという時の “勝負スーツ” だからこそ、きちんとルールに則って品格を大事に着こなしたいというわけですね。さすが、色々な国のキャラクターをその表情一つで特徴づける、まさに表現者らしいこだわりですね。

中井さん:仕事もファッションも、いくつになってもこだわりの部分は忘れたくないですよね。歳を取ると、つい面倒臭がってしまうことが多くなります。細部を疎かにしてしまうと、ビジュアルも何処となくリアルさがなくなり、迫力に欠けてしまいますからね。いつの間にか作画が枯れてしまったな、なんて読者の皆さんに思われたくありませんから。いくつになっても、迫力ある絵を描いていきたいものです。そのために、これからも仕事もファッションも、探究心を忘れず、大いに楽しんでいきたいと思います。


中井 義則 さん漫画家 / ゆでたまご作画担当

大阪市浪速区出身。熱烈な野球少年で絵を描くことは好きだったが漫画は嶋田に出会うまではあんまり読んだことはなかったという。連載開始から4年間集英社の執筆室に住み込みながら描き続けた伝説を持つ。絵柄の為には人体構造の研究や3Dを取り入れるなど努力を怠らない、日々研究をモットーとする。 代表作は『キン肉マン』とその続編『キン肉マン II世』、『闘将!!拉麺男』などがある。