麻布テーラーの人々 須山 暢大さん(大阪フィルハーモニー交響楽団 コンサートマスター)

「麻布テーラーの人々」と題し、麻布テーラーと深く関係のある、一線で活躍をされている方々にお話をうかがうこの連載。今回は大阪フィルハーモニー交響楽団で、コンサートマスターとして活躍する須山暢大さんにお話を伺いました。

まずはコンサートマスターという役割について教えていただけますでしょうか。

須山さん:簡単に言うと、オーケストラの中での調整役であり、リーダー的な役割もこなします。というのも、オーケストラって月10公演位する場合もありますが、指揮者は必ずしも同じ人ではないんですよね。そうなると、指揮者によって曲の解釈も違ってくるんです。例えばベートーベンの曲にしても、タクトを振る指揮者によって微妙に解釈が違うんですよ。

そうだったんですね。それは知りませんでした。

須山さん:だからこの曲はどんな雰囲気だとか、このフォルテの部分をどこまで表現するだとか、いろんな解釈が出てきます。そういった指揮者なりの解釈をリハーサルで皆に伝えますが、オーケストラとしてのカラーというか、ポリシーみたいなものもあります。だから、これはできないなという部分も出てくるんです。そこでコンサートマスターが指揮者のやりたいことを理解しつつ、オーケストラの意見も汲み取り、いわば中間業者となって曲を完成に近づけていきます。

それは大変そうですね。まさに調整役というか。

須山さん:やっぱり演者も聞いているお客様も、できるだけみんながハッピーな演奏に仕上げるのが大きな役割ですね。あとはヴァイオリンも担当していて、オーケストラでは基本的に16人のヴァイオリンがいますが、ソロパートを弾くことももちろんあります。

なるほど。演奏中に指示を出されることもあるんですか?

須山さん:実はたくさんあります(笑)。オーケストラが大規模になれば、演奏者は80人くらいになるんです。だから、コンサートマスターが座っている、指揮者に近い席と、一番後ろの方にいる金管楽器や打楽器の方とはどうしても時差が生まれるんです。そこでタイミングが揃うように合図を出したりしています。実は演奏がずれることもたまにあって、そういう場合は大きく合図を出して、他の楽器をリードする場合もあります。

それは大変ですね。やっぱり経験やチームワークみたいなものも大切なんでしょうか?

須山さん:そうですね。僕は大阪フィルに入って4年目ですが、実際にやってみないとわからないこともたくさんあります。まだまだ若手なので、経験は少ないんですが、少しずつより良い方向に導いていけるように日々勉強しています。

いわば裏方役もこなしながら演奏もする、大変な役割なのですね。 それでは衣装のお話をお伺いできればと思います。 まずオーケストラって皆さんスーツやタキシードを着ていらっしゃいますが、 何かルールなどはあるんでしょうか。

須山さん:オーケストラによって違いはあると思いますが、大阪フィルの場合は、夜の演奏会ではタキシード、お昼はスーツのように決まっています。でも時期によって変わったり、少人数の場合は、相談して決めたりする場合もあります。

色なども決まっているんですか?

須山さん:大阪フィルはだいたい黒ですね。でも皆さんご存じの方も多いとは思いますが、東京交響楽団という東京のオーケストラがあって、そこは紺色なんですよ。紺の燕尾服ですね。そんな風に、楽団で色が統一されている場合が多いです。

他の部分、例えば裏地の色なども指定があるのですか?

須山さん:そこまではありません。他のコンサートマスターの方で、裏地を赤にするなど、遊んでいらっしゃる方もいらっしゃいます。

そうだったんですね、では色は決まっていて他は少し遊べるといったイメージでしょうか。 では、今回のタキシードはどんなイメージで作っていかれましたか?

須山さん:まず最初は生地を選びました。広いホールで演奏することが多いので、少し光沢があった方が遠めでも映えると思ったんです。それとやっぱり演奏をするうえでストレスを感じない動きやすさも意識しましたね。やっぱりオーダーならではだと思ったんですが、軽さと程よい光沢感が本当に素敵だなと満足しています。

動きやすさとフィット感はいかがですか?

須山さん:弾いてみて思ったんですが、まったく問題ないですね。それとヴァイオリンって左手をひねる動きがあるんです。だから少し左手は長めにしていただきました。そういう部分もオーダーならではですね。

ベストの裏地は茶色にしていらっしゃるんですね。

須山さん:そこが僕なりの遊び心ですね。ちょっと色を入れてみたいと思ったので、スタッフの方に相談に乗っていただき、この色を最終的に選びました。楽器の色と似ていることもあって、何となく落ち着きますし、本当に素敵だなと満足しています。実は、ベストを着るのは初めてなんですが、本来の正装はこちらということもあって、気持ちも引き締まります。でも、着心地は本当に快適です。 僕たちはクラシックな曲や演奏を大事にしながらも、最新の音楽なども演奏する機会もあります。それは伝統を大切にしながら、今のお客様の好みや時代性も意識しているんですよね。今回オーダーをしてみて、麻布テーラーさんのスーツも、同じように伝統と流行のどちらも大切にされていることを本当に実感できました。


須山 暢大 さん

須山 暢大 さん大阪フィルハーモニー交響楽団 コンサートマスター

都立芸術高校を経て、東京藝術大学音楽学部卒業。 第1回宗次エンジェルヴァイオリンコンクール第2位。NPO法人イエローエンジェルより2年間1831年G・F・プレッセンダ製作(E・X・シュルツ)を貸与される。シオン・ヴァレ国際ヴァイオリンコンクール入賞。NAGANO国際音楽祭でのコンクール第1位。ヴァイオリンをグリゴリー・フェイギン、石川静、ジェラール・プーレ、山口裕之、シュミュエル・アシュケナージ各氏に師事。 ソリストとしてセントラル愛知交響楽団、藝大フィルハーモニア、東京室内管弦楽団、Shlomo・Mintz指揮 Orchestre Dohnanyi Budafok、Spirit of Europe等と共演。これまでに、サイトウキネンオーケストラ、紀尾井シンフォニエッタ、赤穂国際音楽祭プレコンサート、姫路国際音楽祭プレコンサート等多数出演。エピス・クァルテットとしてベートーヴェン弦楽四重奏曲後期作品シリーズを毎年開催。ソロ・ヴァイオリン、コンサートマスターを務めたCD「CHAMBER MUSIC PLAYERS OF TOKYO in 紀尾井ホール」がレコード芸術の特選盤に選ばれる(オクタヴィア・レコードより好評発売中) 日本各地の主要オーケストラにコンサートマスターとして客演した後、2018年大阪フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターに就任。