Cotton fabrics

トインビーが言うところのイギリス産業革命。この近世と近代との分水嶺である工業化は綿織物業から始まっています。

17世紀末、イギリス東インド会社が莫大な利潤を得た交易品の中でその発端となったものといえばインド産の綿織物です。この吸湿性がよく、肌触りもよいインドの伝統的手工業製品を安く大量に自国生産したいとの思惑がジョン・ケイの飛び杼に代表される18世紀の技術革新と相俟って、英国を綿の輸入国から世界最大の輸出国へと転換させる契機となります。

もともと毛織物業が盛んであった英国の羊毛産業を脅かせつつも、原料供給地と市場を兼ねた植民地を有することによって可能にした綿織物業の拡大生産過程はそれこそが帝国主義の歴史であると言えます。

現在では最高級綿と謳われる海島綿で有名な西インド諸島やGIZAコットンで知られるエジプトはどちらも英国が投資をしてプランテーションを布いた土地ですし、同様に綿花栽培が盛んな合衆国やインドは南アフリカから奴隷を送って労働に従事させてきた土地です。先だってのAPECでTPPが議題に挙がったことが何と平和的かと思えるくらいの強制関税操作でインド綿産業を壊滅させ、政治的戦略を絡めてエジプト経済を麻痺させてきた経緯があるところからして、綿織物と英国とは因縁浅からずといったところでしょう。

そんな英国の功罪の功の方ですが、そのお陰もあって英国のテイラードウェアで思い浮かぶ綿織物と言えばコーデュロイ、モールスキン、ヴェルベッティーンetc.春夏物ではシアサッカー、サンクロス、ドリルクロスetc.と個性のある素材が揃っています。ワーク素材としてのデニムはどうやら英国の上流階級には無縁のものだったらしく英国的な装いの中には根付かなかったようですけれどもね。ツィードのスポーツコートに合わせるトラウザーズとしてはデニムが便利なことは論を待たないのですが、やはり私としてはコーデュロイのトラウザースが宜しいようで。

有難いことに皆様からの評判が良かった私のコーデュロイトラウザース。英国素材と言えばチクチクのツィードに代表される毛織物ばかりがクロースアップされる嫌いがありますので、実際はそんなこともないんですよという意味をこめて綿織物のお話にしてみました。

野間 剛

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