ネクタイ1本にかけるこだわり。
先日は、京都府の京丹後市に行っていました。麻布テーラーネクタイの代名詞ともなっている108色を揃える「Super solids®」「Super stripes®」の機屋さんがここにあるのです。本日は、少しマニアックな内容になりますが、麻布テーラーのネクタイ1本にかけるこだわりを思う存分お話しさせて頂きたいと思います。
「Super solids®」「Super stripes®」は、西陣で手配した厳選した絹糸を染めた状態で丹後まで運び、希少な低速織機で織り上げます。ネクタイの生地を織り上げているのがこの機屋さんです。
ごまかしの利かないデザインなので、数ある機屋さんの中でも最も技術力の高い職人さんの元でお願いしています。
一番重要視している工程が糸繰りという準備工程です。
糸繰りとはカセ(手に持っている)の状態の糸を枠に巻く工程ですが、かなり遅いスピードでテンションもゆるく繰っています。カセ糸を広げて放射状の針金の車輪のようなものを後光(ごこう)といいます。絹は天然繊維であるため、どんな糸にも節があります。糸繰りの途中でその節が引っかかると後光が止まります。その場合は糸をほぐしてほどくのですが、スピードが速くてテンションが強いと糸の節で後光が止まったときに絹糸が強く引っ張られた状態が続きます。あるいは、節があるときに止まらず引っ張られた状態で繰っていくことになります。見た目ではわかりませんが、織るときにトラブルが必ずと言っていいほど出てきます。例えば、絹を2本、3本引きそろえて織る場合に糸がそろいにくいということが発生し、織るときに致命的なトラブルになります。また、遅いスピードでテンションをゆるくすることで、同じ打ち込みでも生地の風合いがよくなります。多くの台数を持っている機屋さんは糸繰りを外注しています。外注先(糸繰り屋さん)では能率を上げるためにスピードを速くテンションを強くしてより多くの糸を繰ろうとしますので、トラブルが発生しやすく生地の風合いにも影響します。しかし、大量に糸を繰るために仕方のないことなので、この工程を丁寧にするということは、小さな規模でないとやっていけないかもしれません。
次に重要なのが、経糸(たていと)の節をメンテナンスすること。多くの工場では織手さんは常に織機の正面に立っていますが、ここではいつも経糸側(下の写真の右奥)に立って経糸の節を監視しています。
普通は織前で生地をチェックしキズ等があれば織機を止めて対処するのですが、ここでは経糸の監視が十分なのでキズ等を未然に防ぐことができます。織機を止めずに経糸をつなぎ変えることはかなり熟練の人でないと難しいことです。絹は天然繊維なのでどんな糸でもトラブルは常に発生します。そのトラブルを未然に防ぐ、あるいは、最小限に抑えるということが生地を織る工程で必要になります。ネクタイは工業製品であるにもかかわらずかなり人に依存した状態が続いております。
ちなみに素人の私はこのように織機の正面に立ちます(笑)。
そして、希少な低速織機で織り上げます。1時間で50㎝しか進みません。よって通常ネクタイの2倍の時間がかかっています。時間がかかるということは、経糸と緯糸の密度が極限まで高まり張りと膨らみのある風合いが出来るのです。
織り上がったら織機から生地を丁寧に下ろします。たたんだり掴んだりすると織り組織によっては修復できないダメージが出ます。そして、奥様が丁寧に傷や節をチェックして取り除きます。
我々のソリッドやストライプはかなり難しい織物なので、このように気が遠くなるような丁寧な仕事が必要になります。これで、\4,500+税⁉麻布テーラーのネクタイ1本にかけるこだわりと裏腹なプライス。売れて当たり前か(苦笑)。
最後に、このような良い企画を生み出すには、遊び心が大切です。天橋立に立ち寄り、股のぞきでパチリ。織機の正面にしか立てない理由は私のこの性格が原因です(笑)